平成27年度町内会活動実践者研修会報告

シリーズ⑯ ~避難所運営ゲーム(HUG)を学ぶ~

 

 

 平成27年度町内会活動実践者研修会は、平成27年8月5日、札幌市において、道内各地から95名の参加を得て実施されました。
 本年度は、避難所運営ゲーム(HUG/ハグ)をとおして、避難所生活で起こりうる問題や災害時要援護者にどう対応していくかを学びました。

 

実践報告「祝梅小学校における宿泊訓練の実施」
報告者 中村 勝信 氏(千歳市梅ヶ丘1丁目町内会長)

▲報告者の 中村 勝信 氏

 

◆避難所運営のための組織づくり

 

 千歳市梅ヶ丘1丁目町内会(107世帯)では、いざという時に備え、住民が避難所での集団生活を体験するため、平成25年5月、近隣4つの町内会合同で祝梅小学校圏避難所運営準備委員会を立ち上げました。委員会の1年目は、東日本大震災で救援活動を担った町内の自衛官から避難所の様子について講演をいただき、被災地では町内会の組織がしっかり機能している地域の避難所が、比較的うまく運営されていたとのことでした。

 

◆体験によって課題に気づく

 

 委員会2年目の平成26年度は、災害時に避難所となる祝梅小学校で避難所宿泊訓練を実施しました。訓練では、災害図上訓練(DIG)で要援護者の支援や地域の危険箇所等について話し合った後、段ボールのベッドや簡易トイレの組み立てと使用を体験しました。簡易トイレは、マンホールのフタを開けて使用しますが、フタの開け方を誰も知らなかった等の課題がたくさんあることに気づけたことは訓練の成果でした。また、宿泊する体育館には、段ボールを使用して高さ1メートルくらいの仕切りを作り、女性も安心して寝られるようにプライバシーの確保を図りました。

 

◆住民が参加しやすい訓練を

 

 避難所運営訓練には、なかなか人が集まらないため、子ども達やPTAと一緒に、担架で人を運ぶゲーム、バケツリレーを盛り込む等、楽しみながら参加できる避難所運動会を計画しています。また、災害は夏に起きるとは限らないので、冬の寒さのなかでの宿泊訓練を実施したいと考えています。避難所運営を体験すると不測の事態にも対応しやすくなるので、ひとりでも多くの住民が参加するように工夫した訓練を実施して、日ごろから災害に備えるのが我々の務めだと思っています。

 

講義テーマ「災害に強いまちづくりをめざして~HUG(避難所運営ゲーム)を学ぶ」
講 師 今 尚之 氏(北海道教育大学教育学部准教授)

▲講師の 今 尚之 氏

 

◆「防災のサンマ」は「時間・空間・仲間」

 

 災害に強いまちづくりのためには、まず、私たち個人や家族が、しっかりと災害や防災の知識をもつことです。それが地域の中でお互いに連携し合い、地域の力となっていきます。防災のポイントは、「時間・空間・仲間」、間が付く言葉が3つで、「防災のサンマ」と言われています。時間は過去の災害の教訓、空間は自分達の地域が抱える条件、仲間はまさに町内会のことでお互いに助け合う住民のことです。町内会の活動をとおして、ひとり一人が防災の意識を高め、町内でお互いを支え合っていくことが、災害に強いまちづくりの基礎となります。

 

◆日ごろの備えで災害を防ぐ

 

 災害とは、「何らかの異変が生じ、これに対して個人や集団・組織・社会などが適応できず、人々の生活の安全や財産、社会秩序が失われ、破綻する状態」のことをいいます。東京で5センチ雪が降ったなら、ケガ人や死者が出ることがありますが、北海道民は、長靴を履く、歩き方を工夫する、家の前を除雪する等の備えを行っているため、雪が5センチ降っても多くのケガ人は出ません。つまり、事前の備えによっては同じ自然現象でも災害にならない場合があるということです。このように、災害を未然に防いだり、被害の拡大を防ぐ、または災害からの復旧を図ることを防災といいます。

 

◆正しい防災情報を得る

 

 人は自分の都合の良いように防災情報を解釈し、被害想定を軽くみる傾向にあるので、正しい情報を得ることが大切です。テレビやラジオの情報のほか、普段から防災について考えるために、インターネットで情報を入手したり、図書館をとおして資料を集めることをお勧めします。役場等でハザードマップを配布していますので、地域では、町内会の総会や行事で掲示したり、広報紙や回覧板で意識づけたり、高齢者の見守り訪問でハザードマップを広げて災害の備えを伝える等、住民に正しい情報を提供することが大切です。札幌市のハザードマップでは、大雨時に悪い条件が重なると、札幌駅周辺も50センチ程浸水するとされています。水深50センチでも、子どもには危険ですし、マンホールのフタが開いていたら落ちてしまう可能性があります。また、災害時、家族を探している間に被害に遭うこともあるので、日ごろから災害時の対処を家族で話し合い情報を共有することが非常に大切です。

 

◆住民同士で助け合う

 

 阪神淡路大震災で生き埋めになった方々が救出されたのは、自力・家族(自助)が66・8%、友人・隣人(共助)が28・1%、救助隊(公助)は僅か1・7%でした。災害が起きると、消防や自衛隊が救助に来ると思いがちですが、災害が広域で大規模な場合は、自分達には救助は来ないと考え、お互いに助け合いましょう。淡路市では震度7を記録し、多くの人が倒壊した建物に生き埋めになりましたが、この地域では日ごろから住民同士がお互いをよく知り合っていたため、「あのおじいさんはここで寝ているからきっとここに埋もれている」と、地域の方が多くの住民の命を救いました。
 災害時、このように住民が助け合うためには、日ごろの町内会活動がとても大切です。町内会で災害に備えた研修や訓練を実施するにあたり、避難についての言葉を知っておいていただきたいので紹介します。

 

 

◆地域で避難所運営マニュアルづくり

 

 被災者の欲求は、災害発生直後は、水、食料、トイレ、寝る場所、風呂等が中心になりますが、時間がたつにつれ、知人の安否が気になる等の社会的欲求、プライバシーの確保等の心理的欲求が強まります。避難所運営では、要求にどう応えるか時間を追って細かなケアが必要となります。また、避難者の半分は女性で、子どももいるので、女性や子どもの視点に立って、安心して生活できる避難所づくりへの配慮が必要です。多くの市町村で避難所開設や運営のためのマニュアルが作られていますが、もし皆さんのまちに無ければ、地域一体となって作りましょう。自分達の地域はどんな災害に遭ってきたのか、どんな地理的条件があるのか、多くの住民と話し合って、自分達のまちに合った避難所開設・運営マニュアルを手作りしてください。その過程で、避難所の開設訓練、体育館での宿泊体験等をとおして問題点を洗い出し、実践的なマニュアルを作りましょう。作成後は毎年のように見直して地域の声を反映させたより良いマニュアルにすることが大切です。

 

◆HUGで避難所運営を模擬体験

 

▲様々な避難者を適切に誘導

 避難所運営ゲーム(HUG・HinanzyoUnei Game)は、静岡県が開発し、災害発生直後の避難所開設から数日間、避難所運営をする立場になった時、初期段階で殺到する人々や出来事にどう対応するかを模擬体験するものです。平成28年3月には、冬の地震や大雨災害の想定を導入した北海道版のHUGが作られる予定です。HUGでは、ひとり一人の避難者の年齢や性別、国籍やそれぞれの抱える事情が書かれたカードを使って、避難所となる学校の体育館や教室に見立てた平面図へ適切に避難者を誘導するほか、避難所で起こる様々な出来事にどう対応していくかを体験しながら避難所運営を学びます。要援護者等に配慮した部屋割り、炊き出し場や仮設トイレ等の生活空間の確保、さらに、報道への対応等をグループで考え、意見を出し合い、話し合うことで避難所運営を学ぶことがHUGの狙いです。避難所運営の模擬体験で学んだことを、皆さんの地域の防災活動に役立てていただきたいと思います。

 

 

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