平成22年度町内会活動実践者研修会は、平成22年8月2日、札幌市において道内各地から約80名の参加を得て実施されました。
 本年度は、安心・安全な地域づくりのため、町内会活動における傾聴の実践方法を学びました。


実践報告  安心・安全な地域づくりの取り組み

報告@
もしものときに備える「安心カード」
報告者 小樽市朝里地区連合町会長 鈴木 隆義 氏
 ▲報告者の鈴木会長
 小樽市朝里が丘町内会(167世帯)では、ひとり暮らしの高齢者向けの救急対策として、もしもの時の安心・安全を確保するための「安心カード」を配布しています。氏名、住所、生年月日、血液型や、健康保険証番号、常備薬、かかり付け病院や緊急時の連絡先などの本人の情報を記入した「安心カード」を、絆を表すハートのシールを貼った100円ショップの容器に入れ、それぞれ自宅の冷蔵庫に保管してもらいます。「安心カード」の情報は警察・消防と共有され、緊急時には救急隊員などが冷蔵庫からカードを取り出し、個人の情報を入手して、迅速な対応をとることが可能となっています。この取り組みをお互いの助け合いとして、ひとり暮らしの高齢者に限らず、市内全域に広げていきたいと考えています。

▲絆をあらわすハートのシールを貼付 ▲冷蔵庫のドアポケットに
 

報告A
若松地域の見守り・たすけあい活動
報告者 岩見沢市若松地区町会連絡協議会長 三上 宏一 氏
 ▲報告者の三上会長
 岩見沢市若松地区町会連絡協議会(1,298世帯)では、ひとり暮らしの高齢者の安否確認や閉じこもり防止を兼ねた給食や託老サービス事業、女性部による訪問活動等に取り組んでいます。
 そんな中、全市的取り組みとして、平成22年1月に岩見沢市町会連合会で「安心連絡カード」を作成し、ひとり暮らしの高齢者や高齢者夫婦世帯に配布しました。急病や不慮の事故など緊急の事態が発生した際に慌てることなく、本人または家族・隣人・関係機関が必要な対応ができるよう準備するのが目的で、本人の情報、親族、友人、かかり付け病院、身近な相談相手の連絡先を記入し、電話のそばに備え付けてもらい、見守り活動に役立てられています。
安心連絡カード
 ▲表面  ▲裏面
(画像クリックで拡大表示されます)



講義
 テーマ「町内会で聴き上手になるためのコツ」―「傾聴」するための心構えと技術―
講師 五十嵐 教行 氏(特定非営利活動法人北海道総合福祉研究センター理事長)
 ▲講師の五十嵐教行氏
●「聴いてほしいと願う人」の気持ちについて
 多くの人たちが、自分の話を聴いてもらいたいと思っています。話を聴いてもらった経験を持つ人は、実は少ないのです。話をしても、自分が満足出来るような話ができていないということです。現代人は、残念ながら聴くことができる余裕をもたず、自分のことを言いたいだけなので、お互いの満足感が得られないまま会話が終わってしまうのです。これは現代人のコミュニケーションのひとつの表れと言えるのです。
 私たちは、自分のペースで、自分の気が済むまで話が出来る人に、聴いて欲しいのです。なぜなら、いたたまれないからです。自分の胸の内にためてある不安や心配を誰かに聴いてもらえるだけで、少し救われると思うのです。気が済むまで話をし、私の気持ちを分かってほしいのです。
 話を聴くうちに話の中身が分かってくると、聴く側は話を聴くまでもなくなり、先を急かせたり、退屈し飽きてきてしまいます。このような態度では、「私のことを分かってくれない」と相手を寂しい、悲しい気持ちにさせ、相手も折角話したのに、満足感は得られないのです。相手が思う存分、言いきるまで聴けるがどうかが重要なのです。
 相手のことを分かりたいという強い気持ちが持てないと、聴き上手になるのは難しいです。町内に困っている人がいたならば、なんとか力になりたい、話を聴きたい。その気持ちが相手に伝わらないと「分かろうともしないのに」という反発を招いてしまいます。本当に分かってほしいからこそ、分かってくれそうな人に話をしたいのです。

●どのように相手を観察しているか
 普段、人の話を聴く時に、どんな風に聴いているでしょうか。「人の話を聴くときには相手の目を見るものだ」と教わった人が多いでしょう。しかし、実際に目と目が見合うと、かなりの緊張が生まれます。緊張が高まった中では話しづらいので、目を見過ぎないように、おでこや鼻などの顔全体、または肩や腕に目を向けます。目を合わせてくれることで、きちんとコミュニケーションがとれているかどうかの確認をしようとする人は多いので、時々目を見て、きちんと聴いているという合図を送ります。

●どのように質問しているか
 話し手は、混乱して自分の考えが整理できないでいると、頭に浮かんだまま話を進めてしまいます。時間の流れに沿って話を聴きたいので、聴き手が質問をしながら少しずつ整理していくことが大事です。
 聴いている自分が理解できるように質問をすると、相手の混乱した頭の中を勝手に整理します。話をするうちに、自分の考えが整理され、何をしたらいいのかもわかってきて、聴いてもらって良かったということになります。

●どのように自分は聴いているか
  腕組みをしたり、眉間にしわを寄せ、目をつぶったり、威圧するような態度は、表情が分からず、聴いているのかどうか確認できないため、相手にはとても嫌な聴き方に感じさせてしまいます。
 話を聴く時は、手をテーブルなどに置き、顔を見ながらうなずきます。顎を引きながら黙って「うんうん」とうなずいて聴くだけで結構です。いつうなずくか、それは相手の話している時の「間」にうなずくのが一番良いです。

●聴くだけの余裕があるか
  聴くことは、ものすごく体力を使います。いつ終わるか分からない話に付き合うのは、大変なことです。相手のペースに合わせて聴く余裕を持たなくてはなりません。
 早く終わらないかなと、イライラしてくると、それは相手にも伝わります。話をしっかり聴く時間を確保して、イライラを抑える忍耐力のための体力にも余裕をもって聴きましょう。

●「私」もまた聴いて欲しいと願っている
  聴いている「私」も、話を聴きながら、自分にもこんなことあったな、前にこうしていたよなと思い出してきます。すると「そんな風に考えるからダメなのだ」、「こうやってやればうまくいくのに」と聴いている私の方が急に話したくなってきます。「だけど…」「だからダメなんだよ」というように相手を否定し、指導が入ってしまうのです。
 相手を黙らせて、自分の話を聴かせようとしてしまうと、相手は話を聴いてくれるはずだったのに、裏切られた感じになってしまいます。言った自分だけが解決して終わるのでは、自分が向こうに傾聴してもらったことになってしまいます。

●どのように聴いているか 
 ▲熱心に耳を傾ける参加者

皆さんは、最後まで聴いた経験がどのくらいありますか。結論を急ぎ、話をどんどん前へ進めたいという人は多いと思います。ひょっとすると、最後まで聴いていなかったかもしれません。
 傾聴とは、考えが揺れているその人の話を聴くことで、結論を決めることではないのです。聴くことは、揺れていることに付き合うことです。聴いている側の価値観をぶつけても、何の解決にもなりません。自分はどうしたらいいのかを、問いかけているのではなく、自分の胸の内を聴いてもらうことで、癒されたいのです。
 皆さんたちが町内で顔を知られているのならば、それだけで信用があるはずです。その信用ある皆さんが「大丈夫かい?顔色良くないようだけど、どうなの?」と度々聴いてくれると、相手はじっとどこかで皆さんを見ようとします。この人は信用できそうだな、安心できそうな人だなと思ったら、次に声をかけられたら喋ってみようと思うのではないでしょうか。今の世の中、信用する相手が誰か分からなくなっています。ぜひ、私は信頼できる相手だよということをアピールして下さい。

●基礎的なコミュニケーションの技法
   話を聴くときには、けなしたり否定もしませんが、褒めたり支持することもしません。専門用語でいう「非審判的態度」に徹するのです。私たちにはそれぞれの善悪の価値観があります。価値観の合わない人には、話したくありません。その人の考えを全面的に言ってもらえるかどうかが重要なので、話を聴く側は、良い悪いを一切言わず、自分の価値観は出さないで、うん、うんと黙って聴くのが一番無難なのです。この人は、何を言っても黙って聴いてくれるなと思える、これほど安心して話が出来ることはありません。
 相手が言った言葉をそのまま疑問形に変えて、言葉を返すと、ほとんどの人が聴いてもらえたという印象を持ちます。これを「鏡の技法」といいます。「今日こんなことがあったんだ」「今日こんなことがあったの?」これだけです。簡単なことですが、これだけで傾聴の基礎が出来てくるのです。
 皆さんにぜひ実践してほしいのは、最初の一言目に「うん、そうか」といえるかどうかなんです。非審判的態度で、驚きもせず、自分の価値観を出さずに受け止める言葉を言えるかなのです。私たちは価値観がはっきりしているものほど、即座に反応してしまいます。それが相手にとっては、シャットアウトに見えてします。シャットアウトせずに、話をしっかり聴くのが傾聴です。聴き上手は、話させ上手であります。相手に次の話をさせられる、そのタネを作ることが大事です。

○参加者からのQ&A  

質問@ 夏休み中のラジオ体操に参加する子どもたちの挨拶がとても少ないので、どうしたら挨拶が出来るようになるか。
答 え 挨拶がないのは、おそらく挨拶をする大人がいないからです。日頃から家族で「おはよう」と言っているか。もしも言っていないのなら、子どもが朝会ったときに「おはよう」と言うことが習慣化されてないのです。ラジオ体操に集まる大人同士が「おはようございます」と言えていれば、子どもたちもつられて言うかもしれません。ラジオ体操をきっかけに、大人も子どもも、同じ住民だという認識で挨拶を掛け合う仲間が出来れば、今度は街で会った時にも「こんにちは」と言えるのではないかと思います。また確実に挨拶をさせたいなら、「A君、おはよう」と相手の子どもの名前を言うに限ります。自分に言われたと分かりますので、「あ、どうも」と言うかもしれません。それでいいと思います。
質問A お母さんと子どもの会話で、テストの点数が20点でも100点でも怒りも褒めもしないのは、逆に子どもはお母さんから関心を持たれていないと思われないか。
答 え 親は、点数に一喜一憂はしないことです。ただし、子どもはどう思ってるのかは訊きたいですね。90点取った子どもに対して、こんな質問をしてみるとよいと思います。「あなたはどう思うの?」「嬉しいよ」「ああ、そう。良かったわね。一生懸命頑張ったの?」「うん、頑張ったよ」「じゃあ、頑張ったのは報われたのかな?」「報われたと思う」「ああ、そうなんだね」と言えばいい。ところがその時に、「そう、お前はやれば出来るんだよ」と言ってしまうと、価値観が出てしまうのでダメです。点数が低かった時にはどうするか。20点取った時は「あなたはどう思うの?」「いや、ちょっとやばいと思ってる」「ああ、そう。やばいと思ってるんだ。どうするの?」「ちょっと勉強しようかと思ってる」「ああ本当、ちょっと勉強しようと思ってるんだ」「うん、ちょっと頑張るから」「じゃあ頑張れるように応援するね」でいいと思います。
質問B 行政担当者として、住民からの要望でどうしても出来ないことなのにうなずいて聴いてしまうと、勘違いされないか、相手にどのように伝えればいいのか。
答 え 行政の出来ることははっきりしているので、「大変ですね、困りましたね。でも行政では出来ないんです」と言って、バツンと切ってしまうのと、切らないのでは大きく違ってきます。「それは大変ですね。だけど行政も出来ないんですよ。どうしたらいいですかね。どこかにこういうこと出来る人いないでしょうか。一緒に考えてみませんか」と答えてみたらどうでしょうか。すると、行政は何もできないかもしれないけれども、けんもほろろじゃない対応をしたことで、相談して良かったかなと思うかもしれません。